会社経営者の方々は、段々高齢化しており、今後その経営する会社・事業をどのように承継していくのかお悩みになっているのではないでしょうか。そこで、事業承継にあたり、7つのポイントをお伝えし、少しでも事業承継にお役に立てることを目的として記述しています。なお、ここでの事業承継は、中小の会社の事業承継を対象としています。
目次
- 事業承継先(親族、経営幹部、外部)の検討は、一択、二択、三択どれでも良い
- 事業承継先は親族、経営幹部、外部
- まず親族を検討
- 次に経営幹部を検討
- 最後に外部を検討
- 一択、二択、三択どれでも良い(全部試すか、選択するか)
- まとめ
- 事業承継は時間がかかるので、できるだけ早くアクションを採る
- 事業承継は時間がかかる?
- 親族への承継プロセス
- 経営幹部への承継プロセス
- 外部への承継プロセス
- まとめ
- ハードルはそんなに高くない
- ハードルは高い?
- まとめ
- 完全成功報酬型の仲介手数料(外部流出費用)は、妥結しない時はゼロ
- 仲介会社の候補選び
- 報酬方法の検討
- 契約時の留意点
- まとめ
- 自社の内部費用が勉強代として発生する
- 自社の内部費用が発生する
- 内部費用は勉強代
- 会社の強み・弱みの把握
- まとめ
- うまくいかなくとも損をしない、会社の現状把握ができる
- 会社の現状把握
- 会社の分析(強み・弱みの把握)
- 会社の価値の把握
- 事業承継の検討(推進か断念か)
- 断念・中止の決断
- まとめ
- まとめ、挑戦の継続
- 再挑戦の布石
- 熟練度の向上
- 間合いの習得
- 最後は清算で最低限を回収する
- 挑戦の継続
事業承継先(親族、経営幹部、外部)の検討は、一択、二択、三択どれでも良い
事業承継先は親族、経営幹部、外部
事業承継先の候補は第一に親族、親族が無理なら親族以外の経営幹部、それでも難しいなら外部へ移っていきます。
まず親族を検討
親族に事業承継を考える場合には、子供、特に兄弟のうち長男が第一候補になります。しかし、長男の興味が親の事業にない、長男が安定した職業についている等の時は、事業承継は難しく、次男以降も同様です。子供が姉妹の時は、結婚等の理由でさらに難しくなります。
なお、親族の場合は、相続税、贈与税等の相続対策を行います。
次に経営幹部を検討
親族以外の経営幹部の場合には、事業自体に対する関心は高いものの、株式移転の際の売却代金等のお金の工面、それを借入れにする際の担保の確保及び会社の負債の個人保証等ができるかどうかにかかわります。通常、経営幹部のうち番頭格の役員が候補になりますが、サラリーマン役員では、それらの負担はハードルが高くなり、現実的にはなかなか難しいケースが多いです。
しかし、会社の技術等の特徴があり今後事業の成長が見込める時は、投資ファンドが資金提供し、経営幹部を経営者として採用します。
最後に外部を検討
親族、経営幹部への事業承継が難しければ、最後は外部に事業売却し事業を承継してもらうことを考えます。
一択、二択、三択どれでも良い(全部試すか、選択するか)
会社経営者の目的に応じて、一択、二択、三択どれでも選択が可能です。親族に引き継ぎたいのであれば一択、事業を身近で引き継ぎたいのであれば親族と経営幹部の二択、引継先にこだわりがないのであれば、三択を選びます。
また、順番に検討したいという時に、親族に承継するのが第一優先順位であれば、親族→経営幹部→外部の順に、会社を売却するのが第一優先順位であれば、この逆の順位で進めます。
まとめ
まず、会社経営者として、どうしたいのかを明確化し、事業承継先のそれぞれの選択肢をあらかじめ選択するか、順次検討して絞っていく方法があります。
事業承継は時間がかかるので、できるだけ早くアクションを採る
事業承継は時間がかかる?
事業承継先が親族、親族以外の経営幹部、外部のどれでも時間がかかります。
親族への承継プロセス
親族への事業承継では、関係親族内の合意プロセスとして、承継親族の指名、承継方法・手続きの選択、承継親族の説得・承諾、関係親族の相続・贈与の検討、その関係親族の説明・承諾等を行います。関係親族が多ければ多い程、時間がかかります。
関係親族間の相続・贈与に関しては、その方法により関係親族の取り分・持分が変わってくるので、親族間の調整を行います。
経営幹部への承継プロセス
親族以外の経営幹部への事業承継では、その経営幹部との合意プロセスとして、承継経営幹部の指名、承継方法・手続きの選択、承継経営幹部の説得・承諾を行うと同時に、上記と同様な関係親族内の合意プロセスを進めます。
外部への承継プロセス
外部への事業承継では、その外部との合意プロセスとして、外部への売却方法、売却金額の交渉等を行うと同時に、上記と同様な関係親族内の合意プロセスを進めます。
なお、外部との合意プロセスには、専門的なノウハウを持つM&A仲介会社等の媒介が必須となります。
まとめ
親族間の合意プロセス、経営幹部との合意プロセス、外部との合意プロセスのそれぞれ又はその組み合わせを進めるため、時間がかかる訳です。そこで、事業承継は、できるだけ早く検討を開始することが重要です。
ハードルはそんなに高くない
ハードルは高い?
ハードルとは合意のできる水準・高さですが、ケース毎の個別に与えられた条件次第で、高いともいえるし、高くないとも言えます。
親族間との合意は、創業者である又は親族間でリーダーである会社経営者の方が生前であれば、相続・贈与で方向性を明確にすることができるので、スムーズにいきます。しかし、そうではなく相続・贈与で方向性を明確にすることができず取り分・持分で揉める際には、なかなかスムーズには行きません。
相続争いになると、裁判費用、弁護士費用等のお金と解決のための時間がかかるだけでなく、事業承継の合意の選択肢が限られてくるため、トータルで考えるとメリットはありません。
関係者間で合意を得られるよう根気よく且つ冷静に話し合いを進めるべきです。
親族以外の経営幹部との合意は、条件次第であり、条件を煮詰めていけば、イエスかノーの結論にはあまり時間を要しません。
外部との合意は、上記と同様に、条件次第ですが、条件の項目数が多いのでその検討に時間がかかります。ただ、条件交渉を長々とやると際限がなくなる恐れがありますので、期限を決めて交渉にあたります。また、条件については譲ることが可能な最低限度を最初に決めて交渉にあたるのが良いでしょう。ダラダラ交渉すると相手に付け入る隙を与えることになります。最低限度以下の条件を相手が出して来たらきっぱりと断わることが賢明です。
会社経営者の方がまず考えるのは、売れるのか、売れるのなら幾らで売れるのか、事業をうまく継続してもらえるのかという疑問ではないでしょうか。取引相手の事業とのジナジー効果、規模拡大の効果、事業プロセスの見直し効果等を想定し、メリットとして提示することはできますが、取引相手の考え次第で決まる項目であり、取引相手と話し合ってみなければわかりません。
事業売却は、商品と違い同じものはなく、個別特注品の様なものなので、個別交渉により形が見えてきます。
まとめ
関係者には、買収先、仲介会社、金融機関、親族、会社経営幹部等がおり、それぞれの立場で損得を計算し、いろいろな意見を言いますが、最終的には経営者が判断する案件なので、毅然として決断して下さい。
また、まずは事業承継を検討してみることをお薦めします。わからないことだらけかもしれません。しかし、何時かは事業を承継しなければならない訳ですから、早めに着手するのが良いでしょう。検討を進めながら、段々、事業承継の可能性が浮かんできます。まずは、着手してみる、うまくいかなくても次があると考えて事業承継の検討を進めるのはいかがでしょうか。
完全成功報酬型の仲介手数料(外部流出費用)は、妥結しない時はゼロ
外部との合意プロセスには、買収先候補の探索、マッチング、交渉等、専門的なノウハウを持つM&A仲介会社等の媒介が必須となりますので、仲介会社選びが重要になります。
仲介会社選びに当たり、仲介手数料が気になるところですが、完全成功報酬型という契約であれば取引が成立・妥結して初めて支払うため、取引が成立・妥結しないケースでは支払う必要はありません。
仲介会社の候補選び
仲介会社には、上場会社等ある程度大きな規模の企業を対象にしている会社、中企業を対象にしている会社、零細・小企業を対象にしている会社があります。規模に応じて候補を選ぶことになります。最近は、零細・小企業を対象としている会社では、インターネットでマッチングを行う会社もあります。
仲介手数料については、最低の固定報酬と成功報酬とを組み合わせた報酬制度を採用する会社が多いですが、完全成功報酬型だけの報酬制度を採用する会社もあります。
妥結しないケースでは仲介手数料を払いたくないと考える経営者は、完全成功報酬型の仲介会社を選ぶと良いです。
但し、仲介会社としては取引が成立せず中止になると、それまでかかった費用が持ち出しになるので、強引ともとれる対応で取引を成立させようとすることが考えられます。そこで事前に契約前にその辺りを協議しておきます。
報酬方法の検討
完全成功報酬型の報酬は概ね以下の通りです。(かっこ内は完全成功報酬型以外の場合)
-
相談料 無し (通常無し)
-
着手金 無し (有りの会社も存在する)
-
リテイナーフィー※ 無し (有りの会社も存在する)
※維持費・月額費用 -
中間金 無し (有りの会社も存在する)
-
デューデリジェンス費用※2 無し(有りの会社も存在する)
※2 買収監査費用 -
弁護士費用、登記費用等 有り
- 成功報酬※3 有り
※3レーマン方式が多いです。
売却額 手数料の割合
X1円以下の部分 5%
X1円超・X2円以下の部分 4%
X2円超・X3円以下の部分 3%
X3円超・X4円以下の部分 2%
X4円超 1%
契約時の留意点
契約を締結する前に、本当に仲介手数料が完全成功報酬型で報酬内容が明確に記述されており、かつ取引が不成立になった時の制約・縛りがないか十分検討します。取引が不成立になった時に成功報酬は払わないで済むとしても、仲介契約が継続し、その会社と引き続き仲介契約を継続しなければならない等付帯契約があり、拘束されることになると今後他の会社と取引に影響する恐れがありますので、注意して下さい。
まとめ
仲介会社は、買収先候補の探索、マッチング、交渉等の各プロセスにおいて、いろいろ相談にのってくれます。また、都度、売買の法律的、会計的、税務的なサポートをしてくれます。但し、弁護士、会計士、税理士等に個別に依頼する際には有料になります。
なお、サポートする仲介会社メンバーの人選に注意して下さい。
士業と同様にメンバーの資質・能力の差が大きく、取引に大きく影響を与えるので、メンバーの資質・能力を見極めます。専門性(法律、会計、税務等)、分析力、企画力、問題解決能力、調整力等オールラウンドな能力が求められます。
自社の内部費用が勉強代として発生する
自社の内部費用が発生する
事業承継の検討には、仲介会社に依頼するだけでなく、自社内において、その検証作業をするため、優秀な且つ口の堅い少人数のメンバーでプロジェクトを組成します。また、事業承継の検討が社内外に漏れないように秘密裏に検討を進めます。メンバーは経営企画、事業、法律、会計、税務、人事等の機能から選出します。
そのような人材が社内にいない時には、専門家に委託するなど外部流出費用が発生します。
内部費用は勉強代
事業承継は、経営の異動であり会社の最重要課題として遂行すべきものであり、そのための検討のための内部費用が発生するのは仕方がありません。勉強代として捉えるべきものです。
会社の強み・弱みの把握
事業承継について検討を始める際には、自社の現状を適正に把握し次代の経営に引継がねばなりません。そのために、何を引き継ぐか、どのようにして事業を成長させていくかを含めて承継スキームと共に検討していきます。
まとめ
事業承継先が親族、経営幹部、外部のどこであろうとも、会社という団体が永続的に発展していかねばならないので、会社の目標として事業承継を進めていくことになります。そこで、事業承継に関して発生する費用は自社発展のための勉強代になる訳です。
うまくいかなくとも損をしない、会社の現状把握ができる
会社の現状把握
事業承継先が外部の場合は、デューデリジェンスという買収監査が行われます。これは買収先が
売却する会社に対して、事業(営業・製造・技術)、法律、会計、税務、人事、知財等の主要機能につき監査する行為ですが、売却する会社側も、それぞれの機能について自社の現状を事前に把握しておきます。
会社の分析(強み・弱みの把握)
売却する会社側は、上記のそれぞれの機能について強み、弱み、問題点、対策、今後の展望等を追加して検討します。強み、弱み、機会、脅威の面から事業を評価する手法であるSWOT分析(SWOTは英語の頭文字をとったもの)等も参考になります。
会社の価値の把握
会社の現状把握、分析のもとに、会社の事業価値を把握し、それが外部に売却する際の売却価格にその事業価値が反映されているかどうかを判定します。
事業価値の算定方法としてDCF法・株価倍率法・類似会社比準法・純資産法その他いろいろありますが,計算自体はそれほど難しくありませんので、社内で試算してみることお薦めします。
事業承継の検討(推進か断念か)
事業承継先毎に検討を重ねた上で、随時、全てのプロセスの中で会社、事業が発展・成長するかどうかをキーにして推進か断念かを判断します。
なお、推進するとしても、急ぎ過ぎは禁物です。取引相手に足元を見られてしまいます。後で後悔しない様、十分検討の上進めて下さい。
断念・中止の決断
足元を見られて、安く買いたたかれるような外部への売却は断念をするしかありません。そのような買収先は事業発展よりも、技術的資産、人的資産、現物資産等を目当てにしているケースが多く、事業を買取った後に事業を廃業するようなことも考えられます。
また、外部に売却する場合の売却価格が会社の把握した事業価値を全く反映していないとすれば、通常は、外部への事業承継は中断とせざるを得ません。
しかし、それ以外の要因、例えば資金繰りができない、大きな事故が発生した等の別の重大要因があれば結論は変わってきます。
まとめ
いずれにしても、会社の現状把握、それに基づいた強み、弱み、問題点、対策、今後の展望等の検討等は、事業承継の成否にかかわらず、会社にとって有益な活動になります。
まとめ、挑戦の継続
再挑戦の布石
事業承継の検討が一度うまくいかなかったとしても、あきらめる必要はありません。環境、条件が変われば、新たな事業承継先が見つかる時もあります。
熟練度の向上
事業承継を検討した結果、事業の分析能力は向上します。また事業発展のきっかけをつかむこともあります。事業はトライアンドエラーで進むものであり、それを糧に事業強化が図られることも数多くあります。
間合いの習得
事業承継の検討の経験を積むことにより、事業承継交渉の間合いを掴むことができますので、次回の検討の際に役立ちます。
最後は清算で最低限を回収する
最後は清算しかありませんが、精算は最後の手段であり、それをしないために全社一丸となって頑張ることにより、新たな展望が開けることがあります。
挑戦の継続
継続は力なりの諺のとおり、一度であきらめずに何度も挑戦することをお薦めします。
以上
Finehase36のプロフィール
事業会社で原価管理、経理、財務を20年以上経験すると同時に、事業の選択と集中の一環で多くの事業再編、事業の売却、買収(M&A)に15年以上に亘って携わったほか、IPO(株式公開)支援、子会社支援、内部統制構築等を経験しました。事業再編スキーム(合併、分割、株式交換、精算等)の構築、事業の収益・BSの予測、DCF法・株価倍率法・類似会社比準法等の株価評価に強みを持っています。また、経営者個人に関わる相続、不動産、資産運用、リスクマネジメント等の財産管理業務も得意です。
注
SWOT分析
強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの面から事業を評価する手法