M&Aにおける株式譲渡で、仕上げのフローともいえるクロージング(決済)。 この一般的な流れをその手続きとともに、具体的に見ていきましょう。
目次
クロージングに先行する手続き・クロージングの各種手続きがある
M&Aにおける株式譲渡での最終譲渡契約の締結後、クロージング(決済)が実施されます。
前提として売却株主の株式の譲渡承認請求、株主総会での株式譲渡承認手続きを行い、最終譲渡契約の締結されている必要があります。
その後、本格的なクロージング手続きに入ります。
このクロージングの一般的な流れは、「株券の引き渡しと譲渡代金の決済」→「株主名簿の名義の書き換え」→「重要物の授受」→「受領書の交付」となっています。
クロージングに先行する手続きその1 株式の譲渡承認請求と承認
近年、「株式譲渡」によるM&Aを行うのは中小企業が多く、その中小企業のほとんどが非上場の譲渡制限株式発行会社となっています。
この譲渡制限株式を取得するためには、株式の売手側株主および買手側がそれぞれの会社に対して、株式の譲渡承認請求をする必要があります。
これを受けて取締役会や株主総会などで株式の譲渡承認をするかどうか決定します。
実務的には、売手側で請求をして承認を受けたあと、買手側へ承認された旨通知するといった流れになっています。
クロージングに先行する手続きその2 最終譲渡契約書の締結
株式の譲渡承認手続きが終了すると、最終譲渡契約書の締結へと進みます。
この最終譲渡契約書の中には、クロージング手続きのための前提条件が記載されています。
この前提条件が満たされると、クロージング日において必要な手続きがなされ、M&Aが一応終了することになります。
前提条件に必要な要件
⚫︎独占禁止法上の届け出は完了しているか
⚫︎必要な行政上の許認可の取得や届け出は完了しているか
⚫︎役員や主要従業員について、買手側企業への転籍同意書はとってあるか
⚫︎取引先との継続取引についての契約は締結されているか
⚫︎売手側経営者が私用で使っていた資産(高級外車など)の買取りは完了しているか
前提条件が満たされていることが確認でき、最終譲渡契約の締結が完了したら、いよいよクロージング手続きになります。
株券の引き渡し、譲渡代金の決済
売手側・買手側がそれぞれ「株式譲渡」に必要なクロージングドキュメント(決済関連書類)がきちんと揃っているか、その内容の有効性、正確性や署名・押印の有無などの確認をします。
確認がすんだら、これらクロージングドキュメントを交付。
その後、株券の交付ならびに譲渡代金の支払いが行われます。
代表的なクロージングドキュメント
これらをしっかり揃えて、スムーズな手続きを進めていきましょう。
⚫︎株式譲渡承認のための取締役会議事録
⚫︎株式譲渡承認のための株主総会議事録
⚫︎株式譲渡承認請求書および承認通知書
⚫︎取締役、代表取締役等役員の辞任届
⚫︎株主名簿記載事項書き換え請求書
⚫︎株主名簿、株券(株券発行会社の場合)
株主名簿の名義書き換え
株式譲渡代金が決済されると、次に株主名簿の名義書き換え手続きへと進みます。
原則としては、売手側、買手側から譲渡対象会社へ株主名簿の名義書き換え請求を行うことになっていますが、実務上は、売手側からの請求により変更済みの株主名簿に売手側代表者印を押し、買手側へ交付する形をとっています。
クロージングドキュメントのなかでも、特に重要なものが株主名簿と株券です。
中小企業の場合手間取ることも
株主名簿が存在しなかったり、あっても正確な内容の記載がされていなかったりといったことも多く、株主名簿の管理や整備が不十分な会社が少なくありません。
引き渡しまでには、しっかりと整理しておく必要があります。
また、中小企業のほとんどが株券不発行会社ですので、株主の地位や権利は株主名簿の記載により証明することになります。
この点からも株主名簿の作成と整理・管理にはとくに注意が必要です。
その他の重要物の授受
株主名簿への名義書き換えが完了したあとの手続きとしては、売手側から買手側へそのほかの重要物の引き渡しがあります。
引き渡すべきものとしては次のようなものです。
⚫︎会社の実印、会社の代表者印、銀行印、社印、印鑑カードなど
⚫︎預金通帳、銀行カード、クレジットカードなど
預金通帳などはクロージング日前日の残高が記帳されているものがよいでしょう。
⚫︎鍵、印鑑証明(売手側個人用)など
⚫︎受領書の交付
以上の手続きがすべて終了した時点ではじめて、売手側から買手側へ株式譲渡代金の領収書、その他の領収書の交付、また買手側から売手側へのクロージング書類受領書などの交付が行われます。
まとめ
このように、最終譲渡契約を締結したからといってそこで終わりではありません。
最終譲渡契約からクロージング(決済)まで、まだ確実に処理していかなければならない、多くの手続きが残っています。
ひとつひとつ確実に処理していかないと最後の最後で、 M&Aがブレイクしてしまいます。
気を抜かずに最後までしっかりと対応する必要があります。