M&Aという言葉が新聞上に載り出したのは2000年ごろからです。特に世間を賑わせたのは有名企業による敵対的買収。ライブドアによるニッポン放送の買収問題は特に有名ですね。 それらのおかげでM&Aや買収のイメージは、力づくで無理やり身請けされる金のかかる嫌がらせ、経営が立ち行かなくなった会社の末路など、非常にマイナスのものになりました。 「あそこの会社、経営者変わったんだよ。後継者がいないから会社を売ったらしい」 特に地方の中小企業からのウケはよろしくありません。 本記事では、本来のM&Aはやましいことでないこ、M&Aの代表的な説明、メリットとデメリット、そして売り手の一番の関心ごとである「売った後に今までの経営陣はどうなるのか」を解説していきます。
目次
M&Aの基礎知識
事業や営業権を売却することに抵抗があります。一部の方からは、買収を「身売り」と言われることもしばしば。これは令和になっても変わりませんね。
しかし、経営者の高齢化、後継者不足、企業の成長に限界を感じるなど問題は待ってはくれません。
本来のM&Aはこういった問題を打開して、企業をさらに高みへと上げる手段なのです。
M&Aとは?種類は
M&Aとは企業の合併と買収です。ある企業が他の企業と一つになったり、子会社になったりします。様々な方法がありますが、代表的なM&Aは3種類です。それぞれにメリットとデメリットがあります。
株式譲渡
会社の株式を100%譲渡することで、会社を子会社化する方法を株式譲渡と言います。株式を譲渡するだけというやり方のため、法人格はそのまま残ります。
A会社の株式をB会社が手に入れても、A会社は残り続けるわけです。AはBに支配される子会社と親会社の関係になりますが、A会社の資産などは残って、経営を続けています。
複雑なM&Aの中では、比較的カンタンで、金銭だけで行える魅力がありますね。そのため、中小企業でよく用いられる手法です。
しかし、法人格を丸ごと渡すために起こる問題もあります。それは、会社の資産の中には、経営者個人の資産もあることです。例えば車や家。公用車として使っていたり、社宅扱いで使っていたりしますね。そうすると、法人格を丸ごと譲ってしまうと、以降は会社の資産となり、元々の経営者は使用できなくなります。
もっと深刻なのは保険です。経営者の中には、法人保険に加入している人がいます。普通の保険と違い、かけておくことで保険料が非課税になるなど経営戦略上の得があるのです。しかし、法人格を譲り、退くことで法人保険は対象者が変わります。つまり保険がなくなってしまうのです。新しく民間の保険に入ろうにも、年齢制限などですでに入れないこともあります!
このように、株式譲渡で法人格を丸ごと譲ると問題が出ることもあるのです。
事業譲渡
株式譲渡では都合が悪い部分を解消するのが事業譲渡という方法です。会社を丸ごと売却するのではなく、事業ごとに小さく売却します。
A会社では食品加工を営んでいます。その他に保有している土地を大型スーパーに貸し、毎月家賃収入が入ってきます。そんななか経営者が高齢のため事業売却を考えました。しかし、引退した後は家賃収入で生活したいと考えています。
M&Aで一番カンタンな株式譲渡を行うと、法人格ごと売却するため食品加工場とスーパーからの家賃収入をどちらも失ってしまいます。
そこで、とった手法は事業売却!食品加工の事業のみを売却したのです。事業譲渡は売却したい事業と、買いたい事業がマッチすれば互いに最高な方法!
しかし、デメリットもあります。それは、事業だけを買うので、法人格は変更することになりますよね。そのため、資産や負債、契約などすべてにおいて名義変更をしなければいけません。資産や負債は名義だけで済みますが、契約は相手の会社との関係もあります。事業売却後には契約を打ち切られる可能性もあるのです。
事業売却をする際には、先に取引のある会社に移行の契約を確認することをおすすめします。
合併
1社以上の会社が一つになるのが合併です。よく保険会社や銀行が行っている印象があるのではないでしょうか?もう少し詳しく見ると、新設合併と吸収合併の2つがあります。
新設合併は1社以上の会社が一つになり、新しい会社を作る合併方法です。A社とB社が合併をし、新しくC社を作りました。A社にとってもB社にとっても、スタートが同じです。そのため遺恨もあまりなく、どちらにも働きやすいという利点があります。
吸収合併は一つの会社に1社以上の会社が吸収されることです。A社にB社が吸収され、A社だけが残ります。A社が上場企業、B社が未上場企業などの場合は、吸収合併によってB者に勤める人たちは上場企業の社員になるため喜ばれることが多いです。しかし、そういったことでもないと、遺恨がくすぶるという負の特長があります。場合によっては退職希望者が増加することも。
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事業承継とは?種類は?
M&Aは他社に会社を売却・買収させることですが、事業承継は親族や従業員に会社を継がせることを指します。
以前はM&Aよりも一般的なやり方でしたが、少子化の波と子供は子供で仕事を持っているため、事業承継は年々減っていっています。
親族内承継
子供や婿などに会社を承継します。一番メジャーな承継方法ですが、後継者に足るまで育てるのは時間がかかりすぎるということもあります。
また、昨今では子供がいても家業は継ぎたくないという人もいますね。メジャーではありますが、親族という近さから一度こじれると修復不可能になってしまうこともありますので注意が必要です。
従業員承継
後継者となる子供も親族もしない場合に取る方法です。
社内承継とも呼ばれ、社内のことをすでに知っている従業員を次代の経営者にします。選んだ従業員の人望や能力に左右されますが、社内からは認められやすいです。
従業員承継で注意!連帯保証
数多くいる従業員から選べる利点はありますが、注意することがあります。
それは会社の連帯保証です。金融機関からの融資を受けるなどすると、会社とは別に代表者へ連帯保証を求めてきます。
従業員一人の問題で済みませんので、必ず従業員の親族にも説明をし、了承を得ることをおすすめします。
事業承継と連帯保証についてはこちらこちら
M&Aは身売りでも乗っ取りでもない
経営者にとって会社は自分の子供のようなもの。その子供を他人に渡すようなことはしたくないのが本音ですね。
しかしながら、会社を全力で引っ張ってきた経営者も不死身ではありません。高齢者の波はすぐそこまで来ています。
ふさわしい後継者がいれば心配はありません。しかし、後継者もなく自分が亡くなった後の会社を思うと不安でいっぱいの方は多いのではありませんか?
これまでM&Aの報道は、敵対的買収と呼ばれる非常に攻撃的な手段の者が多かったです。それをやる経営者は驕りもあったと思われます。
本当のM&Aは両社で繰り返し話をし、相互理解を経て行うものです。いわば会社と会社の幸せな結婚です。本来のM&Aは後継者のいない会社や、収益が減ってしまい立ち行かなくなった会社の救世主となるものなのです。
後継者がいないまま経営を続け、とうとう経営者が亡くなったりしたらどうなるでしょうか?これまで働いてきた従業員たちは生活の支えを失うことになります。ある従業員は結婚をし子供が生まれたばかりかもしれませんし、別の従業員は住宅ローンが何十年も残っているかもしれません。さらに他の従業員は、仕事量をセーブして親の介護も行っているかもしれません。
会社がなくなってしまっては、望みの待遇の会社をみつけることはできないかもしれません。
たとえ会社を手放すことになっても、会社を存続させることが最優先です。従業員たちの将来と、取引先との関係もあります。
会社とは人です。経営者が真に守らなければならないのは会社ではありません。人なのです。M&Aで人々の生活を守るのは経営者の使命です。
M&Aは乗っ取りではない ⇒こちら
会社を売った後の経営陣・幹部・社員たちはどうなるの?
今まさに働いている人にとっての一番の心配事はM&A後の自分達の雇用問題!共に会社を経営してきた仲間です。経営者にとっても心配な部分だと思います。
結論から言うと、これまでの雇用は守られます。M&A後も経営は続けていきますので、会社を回している社員達も大事な財産です。
また、M&Aで買収や合併を完了することが目的ではなく、完了した後にさらに会社を大きくすることが真の目的です。そのため、M&Aが完了して安定した段階で、新しい施策がはじまることはあります。
たとえば、年功序列から成果主義への変更です。それにより、上司の降格や部下の昇進があるかもしれません。他にも給与や福利厚生の面においても、変更が考えられます。
極端に悪くなることはありませんが、若干の変更は必ずありますよ。
売却後の旧経営陣・社員はどうなる?⇒こちら