続いてみていくのは、建設業。2020年に東京オリンピックがある関係で、一部分では好景気であるように伝えられていますが、現実はなかなかそういうことではないようです。経営者も高齢の方が多く、事業継承は気になっている人も多いでしょう。
建設業の動向や特徴
建設業は業界としても古い業界といえ、また同時に雇用を大きく持っている企業が多く、日本全体の経済の根底を支える業界の1つと評価しても問題ありません。
一方で、建設業は地場産業となっている場合も多く、仕事がある地域とそうでない地域に分かれている現状では、業界全体の活況が自社にはあまり影響がないと感じてしまっている経営者も多いのではないでしょうか。
さらに、建設業の場合、自社内の後継者の中で会社の会計や経営そのものに興味を持つ人も少なく、経営者の新陳代謝がうまくいっていません。
そのため、先見の明を持つ人たちが、M&Aをうまく活用して新しい業態や新しい顧客に対して積極的にアプローチしていく方法として、M&Aによる事業継承を前向きにとらえている企業も少なくないでしょう。
業界全体の新陳代謝が求められている以上、現経営者としても大胆で抜本的な動きをとる必要が出てくるかもしれません。
建設業の場合、基本的には技術的なものや設備的なもので評価がかなり変わってきます。
また、継承という視点から組織の年齢層や、現場に対してどの程度まで発言力を発揮できるかなどの組織としての性格なども評価軸に乗せている買い手側も多く、今までの経営や人材採用・育成の部分にかなり比重が置かれることになるでしょう。
建設業におけるM&A事例集:背景
今回のM&A事例は関西にある設備建設関係の会社です。
建設業としての業界全体の行く末が不安定であるとして、オーナーは自分たちの息子や孫には積極的に事業継承を進めなかったといいます。
一方で、今まで一緒に事業を頑張ってくれた従業員を見ていくと、どうしても自分が引退するからあとは好きにしなさいとは言えませんでした。
一緒に苦楽を共にした従業員は守っていきたい。
そう考えたオーナーはM&Aによる事業継承による雇用・会社の存続を決断したのです。
雇用さえ守ってくれるのであれば、もう経済的には十分であるオーナーはどんな会社でも構わなかったといいます。
それでも、建設業ならではの雇用数の多さからなかなか手を挙げる企業を見つけることが出来ませんでした。
また、苦楽を共にした従業員というのも、年齢がかなり高齢に偏っていたこともあり組織再編という点でも不安があったのです。
建設業におけるM&A事例集:進め方やポイント
そうした中で、ようやく手を挙げたのが設備メンテナンスの会社でした。
設備建設の会社をM&Aすれば、建設からメンテナンスまでフルラインで展開できる。
このシナジーに着目したのです。
こうした技術的な架け橋は、特にM&Aでは非常によく見られます。
会社の技術に興味を持つのだから、当然その技術を提供する技術者たちは継続して雇っていかなければなりません。
加えて、売り手側の顧客にも目を付けていました。
売り手側の顧客のメンテナンスに関する問題も一手に引き受けることが出来れば、販路拡大が容易であると判断したのです。
建設業におけるM&A事例集:効果
M&A自体は非常にスムーズに進みました。
雇用を守ることについてもかなり前向きに検討したという点が非常に大きかったようです。
買い手側としては、資金の余裕があるというわけでもなかったようで、株式交換などを活用して当面のキャッシュは抑えてM&Aに臨みました。
これも、事業シナジーがかなり大きく評価したためといえるでしょう。
M&Aによる事業拡大や販路拡大、また顧客への信頼醸成などを鑑みると、メリットのほうがはるかに大きく、買い手側の主要取引銀行もかなり前向きに資金を出してくれました。
このように、将来展望が非常に明るい場合、M&Aにおける評価だけでなく、M&Aのための資金調達にも影響を与えます。
結果的にこのM&Aは大成功。買い手側も売り手側もお互いの希望を十分に叶える素晴らしい取引となったのです。
まとめ
お互いのメリットが一致していたり、将来展望がしっかり描けるような取引の場合、周囲の動きもかなり積極的になる良い事例といえるでしょう。
会社の事業を存続させるという話になっていくと、どうしても従業員をどうするかという点が議論の的になります。
普段から人材育成に力を入れていたり、技術や顧客との関係性について深めていたりすることで、突然のM&Aといった状況でも柔軟に対応することが出来るでしょう。
M&Aのため、というよりも、普段の経営のためにもぜひ着実に会社の地力をつけていくとが、結局良いM&Aの秘訣といえるのではないでしょうか。