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「M&Aによる事業承継講座」その4

『株式譲渡』に見るM&Aのプロセス

『株式譲渡』に見るM&Aのプロセス

M&Aによる詳しいスキームについては「M&Aによる事業承継講座」 その3で解説しましたが、実際にそのスキームを利用してM&Aはどのように行われていくのでしょうか。今回は中小企業におけるM&Aスキームの代表格である「株式譲渡」を例に、一連のプロセスについて見ていくことにします。

M&Aの一般的なプロセス

 中小企業などの経営者が、M&Aによる事業承継を行う場合に採用するスキーム(手法)は、「株式譲渡」と「事業譲渡」です(詳しくはその3参照)。

特に、「株式譲渡」は手続きが簡単であるため多く利用されています。

「株式譲渡」の場合の一般的なプロセスの流れは以下のようになります。

上記の流れに沿って個々のプロセスの中で主要なものを中心に見ていきましょう。

①M&Aを行う旨の決定とプロジェクトチームの立ち上げ

M&Aは手段であって目的ではありません

事業承継のための出口戦略として行うといった明確な目的を設定することが重要です。

そして、社内主要部門の従業員からなるプロジェクトチームを結成します。

一般的には、財務・税務、法務担当者の中から招集します。

このような行動は、社内従業員や社外の取引先などに知られないよう秘密裏に行う必要があります。こうして経営者とごく少数のスタッフにより情報を共有します。

②M&Aアドバイザーなどとの面談・契約

中小企業などの経営者が、M&Aによる事業承継を行う場合、外部の専門家であるM&Aアドバイザーといった事業者に依頼することになります。

売手側・買手側のみにつく「アドバイザリー型」と、双方の間に入って交渉する「仲介型」の委託方式があります。

また、特定の一事業者のみと契約する「専任型」と、同時に複数の事業者と契約する「非専任型」があります。

いずれにしても、自社に寄り添いながら協力してもらえる事業者を選ぶことが大切です。

③M&Aスキームの選定とバリュエーション

M&Aアドバイザーなどが決まったら、アドバイザーとともに採用するスキームを決めます

冒頭でも述べましたが、中小企業などのM&Aでは、「株式譲渡」、「事業譲渡」による場合がほとんどですから、自社の事情に応じていずれかを選べばよいでしょう。

会社を全部売却してしまい、経営者自身が多額の売却代金を手に入れたければ「株式譲渡」とします。また、ある事業を切り離し、事業の選択と集中を進めるのであれば、「事業譲渡」を選択します。

具体的なスキームが決まるのに合わせ、バリュエーションを実施します。

バリュエーションとは、売買対象である売手側の「企業価値算定」のことです。これをベースに買手側企業が希望買収価格を決めることになります。

便宜上、M&Aスキームと同時期に入れましたが、このバリュエーションは、他のプロセスでも必要に応じて行われます。

④ノンネームシート・IM(インフォメーション・メモランダム)作成とネームクリア

ノンネームシートとは、売手側企業の事業概要などを記した匿名の A4サイズ1枚程度の書面です。

これをもとにM&Aアドバイザーなどが買手候補探しを行います。

そして買手候補を絞り込んでくると、より詳しい売手側企業情報を作成し開示します。

これがIM(インフォメーション・メモランダム)といった書類です。それとともに売手側企業名も公表します。この公表をネームクリアと呼びます。

このプロセスで数十社の買手候補が数社にまで絞られます。

⑤トップ面談・交渉から意向表明・基本合意契約

数社にまで絞り込まれると、いよいよ売手側・買手側企業のトップによる顔合わせ・面談となります。

ここでお互いの人物像や、経営に対する考え、取り組み方などを確認し、最終的に一社に絞り込みます。

この際、買手側企業から提出するものが、買手側のM&Aに対する本気度を示す「意向表明」といった書面です。

その後、双方トップにより、売却予定価格、条件などを取り決めた「基本合意契約」の締結となります。

⑥デューデリジェンス(DD)の実施

デューデリジェンスとは、「ノンネームシート」、「IM(インフォメーション・メモランダム)」などで開示された情報をもとに、さらに、財務・税務、法務、人事といった重要な情報の提出を、買手側企業が売手側企業に求め、買手側企業で詳細な調査を行うことです。

買手側企業が今まで開示を受けた情報が真実であるかどうかを、外部の弁護士、公認会計士、税理士といった専門家に依頼するものです。

ここで問題がなければ、次の「最終譲渡契約」に進みます。

⑦最終譲渡契約とクロージング(決済)、そしてPMI(事業統合)

一連のプロセスを経て、売買価格、条件が決まると、いよいよ最終譲渡契約の締結となります。

ただ、M&Aでは契約と売買対象物件の引き渡し、代金の支払いといったクロージング(決済)までに、ある程度のタイムラグが生じることが多いため、その間の必要事項も「最終譲渡契約」の中に含めておきます。

ここでM&Aは一応成約し終了します。

しかし、①でも述べましたが、M&Aは手段であって目的ではありません。ここから先のPMI(事業統合)こそが、本来のM&Aの始まりであることを肝に命じておく必要があります。

今回は、中小企業などのM&Aスキームで代表的な「株式譲渡」を基にそのプロセスに沿って見ていきました。