現物配当という仕組みは、2012年の税制改革において導入された新しい仕組みです。この改正は、完全支配関係などの一定の条件を満たす場合に、現物分配により移転される資産を税務上簿価に移転することが可能になりました。つまり、現物分配を行った場合、法人における譲渡益課税が生じないため、組織再編やM&Aの手法として注目されるようになったのです。
現物分配の概要
現物分配とは剰余金の配当などを金銭以外の資産の交付により行うM&Aの手法です。
ほかのM&A手法と比較して、財務上の適格要件の判定が容易であり、また先述したように法人における譲渡益課税が生じないという特徴があるため、コストを抑えて資本関係を整理したり会社の再編を行ったりするのに活用されます。
ただし、「金銭以外の資産の交付」の中に負債が含まれていないため、負債を相手に移転することはできません。
合併や会社分割とは異なる手法であると認識ください。
また、現物分配の手法について調べていくと、必ず「適格現物分配」というものに当たると思います。
これは、完全支配関係が前提となる用語です。
多くの場合、完全支配関係が出来上がっていない事業継承の分野では、あまり関係がないため、ここでは説明を省くことにします。
4つの手法
現物分配による活用では、主に4つの手法が考えられます。
- ①孫会社の子会社化
- ②子会社が保有する親会社株式の処分
- ③子会社の清算における残余財産の現物分配
- ④資本関係の整理
の4つです。
しかし、事業継承という点で見ていくと、主に③の手法となっていきます。
③の手法とは、完全支配関係がある子会社を解散・清算し、子会社が保有している財産を不利な条件で処分せずに親会社に対して現物分配していくという方法です。
換価処分せずに残余財産として残せる上に親会社に対する現物分配となるので、課税などを気にすることなく帳簿価額のまま移転できるという特徴があります。
事業継承でこの手法を用いるためには、一度親会社の傘下に入る必要が出てくるでしょう。
しかし、多くの場合、こうした親子関係は、資本提携や人材交流などを含めてビジネスにおいてプラスになることが多く前向きに検討してもいい形ではないでしょうか。
現物分配における現経営者のメリットとデメリット
現物分配におけるメリットとしては、大きな会社の傘下に入ることができるという点でしょう。
これは、今までの取引先や従業員にとって安心できるということもありますし、また今まであった個人補償や担保といった問題についても、親会社のほうで肩代わりできる銀行も担保移動について前向きに検討してくれるといった形での解消が考えられるでしょう。
事業継承後のゆとりある引退生活において気になるのは、やはり金銭的な問題です。
引退後も個人補償が残ってしまっているというのは、どれだけきれいにスケジュールが引けていても気になってくるのではないでしょうか。
また、子会社になるということは、親会社に株式の売却等を行うはずです。
その際の売却益は引退後の生活にゆとりをもたらすでしょう。
子会社になるデメリット
一方で、子会社になるということによるデメリットは出てくるかもしれません。
まず、引退が遅くなる可能性があります。
事業継承を行う中で、契約等も含めてしっかりと確認していく必要があるでしょう。
また、現経営者以外の株主のコミュニケーションは必要になってきます。
株式総会の特別決議などは必要ありませんが、それでも株式の保有バランスが変わってくるのでその説明は必要となります。
詳しくは、弁護士や税理士などの専門家の意見を聞いてみてください。
現物分配における買い手側のメリットとデメリット
買い手側のメリットとデメリットはどのようなものなのでしょうか。
まずメリットは、相手の会社を子会社化できるという点にあります。
子会社化であれば、独立を保ったまま、相手の会社にある人材や取引先についても柔軟に対応することができるでしょう。
また、業許可などについても引き継がれるため、会社再編コストなどの大きなコストがかからないのも魅力です。
譲渡益課税などからも逃れられるため、金銭的なコストも少ないという点も注目すべき部分です。
一方で、子会社化ということは、その会社自体をまるごと抱え込むことでもあります。
十分な審査などを経ずに行ってしまうと、あとで思わぬリスクやコストが出てくる場合もあるため、慎重な対応を求められるでしょう。
現物分配と事業継承
現物分配を活用した事業継承はあまり例はないかもしれません。
特に子会社化する必要があるということで、それであれば事業譲渡などを使ったほうがいい場合も大いに考えられます。
しかし、現物分配にもメリットはあります。
ぜひ、失敗しない事業継承のためにも様々な可能性について検討してみてください。