M&Aにおける一連の流れの中で忘れてならないものとして、売手側・買手側双方によるトップ面談・交渉があります。 「M&Aによる事業承継講座」その11では、このトップ面談・交渉で留意したい点などについて解説していきます。
目次
M&Aを進める流れをザックリおさらい
売手側経営者はM&Aを行うと決めた時、M&Aアドバイザーや仲介会社と FA(ファイナンシャル・アドバイザー)契約を結びます。
そして、自社の企業価値評価(バリュエーション)を行い買手側企業の選定に進みます。
買手側企業もM&Aアドバイザーや仲介会社を通して、売手側の企業価値評価やその他の資料などから、買収価格やM&Aを実施したあとの事業の将来性などを検討。
これらM&A事業者を通じて具体的な交渉をはじめ、基本合意に至ったあとにデューデリジェンス(DD)を経て最終譲渡契約に入ります。
このようにしてM&Aプロセスは進んでいきます。
トップ面談・交渉をする目的
トップ面談は、よく「お見合い」に例えられることがあります。
お見合いは結婚の意思があるもの同士が仲人などの仲介により顔を合わせることで、お互いの人柄、相性、その他第一印象などをうかがうものです。
トップ面談・交渉もこれと同じように、売手側・買手側双方のトップが実際に顔を合わせることで、お互いが信頼できる企業なのか、また、今後具体的な交渉を行っていけるかの判断をするものです。
トップ面談・交渉を行うことで、その後の基本合意、デューデリジェンス(DD)といった手続きがスムーズに進み、最終譲渡契約の成約率も大幅に高まります。
トップ面談・交渉の際の留意点、ポイント
トップ面談・交渉に際しての留意点、ポイントとしては、売手側・買手側双方に共通していえるものと、売手側・買手側それぞれからのものがあります。
売手側の留意点、ポイント
買手側候補の企業からすると、売手側経営者の口から直接、会社について話してもらいたいと思うはずです。
長い間の会社経営で、どのようにして競合他社に負けない強みを築き上げてきたのか、経営を取り巻く厳しい環境のなかでいかに弱点を克服し、成長させてきたのかなど、経営者自身からの生の情報を聞きたいのです。
このような質問に対して、売手側経営者は、ことさら誇張して話したりしないで、ネガティブな情報なども隠したりせずに誠実な態度で話すことようにします。
その場ですぐに答えられないような質問などは、後日、M&A仲介会社を通して解答するようにします。
このような誠実な対応の結果、その後のM&Aをスムーズに進めていくことができるのです。
買手候補側の留意点、ポイント
売手側経営者からすると、なぜ自社を選んだのか、M&A後の自社の従業員の雇用や処遇、自社の事業の将来はどうなるのかなど、知りたいことや不安なことがたくさんあります。
こうしたことに対しては、真摯に向き合い対応することが大切で、この会社なら譲ってもよいといった安心感を持ってもらえるように接することです。
かつては買収の場面で、よく「買ってやる」というような高飛車な態度で向き合うことも見受けられましたが、決してそのような対応を行ってはいけません。
売手側・買手側両方に共通する留意点、ポイント
双方が、相手側から好印象を抱かれ、信頼関係を形成したいわけですから、話し方はもちろん、話す内容、振る舞いなども、それ相応の対応をとるべきです。
互いの自己紹介からどのような人柄で、経営者としてどのような経営理念を持って経営に当たっているか、また、自社の事業内容はどのようなものか、他社に負けない強みや逆にどこが弱点なのかなど、隠さずに話すことです。
また、この時点では売却価格などの具体的な事柄については話し合わないことです。
持参する資料なども、会社概要や一般的な内容を記した提案書、プレゼン関連のものなどにとどめておいたほうがよいでしょう。
さらに、自社の製品や取扱商品などを持参すると、より事業の内容などの理解が深まります。
従業員への配慮も必要
また、工場や店舗のある企業であれば、工場見学や店舗見学を面談と併せて行うこともあります。
この場合の注意点としては、工場や店舗の社員、従業員には、M&Aのための見学であることを気づかれないようにすることが重要です。
トップ面談、交渉を行う場所については、売手側企業の事務室・応接室などで行うと、従業員または、M&Aに関わっていない役員などに気づかれるおそれがあります。
この場合、買手候補側企業、M&Aアドバイザーなどのオフィス、あるいは、ホテルのラウンジなどで行うほうが知られるリスクは少ないと思います。
トップ面談、交渉の趣旨を考慮すると、あまり長い時間拘束するというのも好ましくありませんから、一般的には、1時間程度で終了することが多いようです。
工場や店舗見学も面談、交渉場所から遠いようであれば、後日改めて行くようにするなどの配慮が必要でしょう。
まとめ
M&Aにおけるトップ面談・交渉は、その後の基本合意、最終譲渡契約の成否を左右する重要なプロセスです。
「先ず売買価格ありき」の交渉ではなく、売手側・買手候補双方ともに相手側の立場を理解し、誠意ある態度で臨むことが大切です。
その結果、双方が納得する価格で、売買することができるのです。