企業を正確に評価する方法とは、意外と少ないものです。そのため、様々な観点から企業を評価していかなければ、適正価格というものはわかりません。ある評価方法と別の評価方法では、企業の評価が1.5倍も違っていたなどということは、実はよくあることなのです。 今回は、企業の評価方法の2つ目として収益還元方式についてみていきます。収益還元方式は、対象企業が赤字の時はうまく評価できませんが、将来性を加味できるという点で特徴のある評価方法です。
収益還元方式の概要
収益還元方式は、対象企業の平均収益額(一般的には5年、長くても10年を評価します)を適正な資本還元率で割り算をし、発行済み株式数で除して1株当たりの株価を算定する方式です。
日本では、M&Aだけでなく、基本的な企業情報の1つとして多く用いられています。
もしかしたら、不動産評価などで聞いたことがあるかもしれません。
債権者や株主等の資金提供者に対する利払いをフリーキャッシュフローといいますが、このフリーキャッシュフローをつかって評価することもあります。
算定方法について
利益還元法では、今までの売上や利益から、今後も一定の利益が続いていくという前提を立てる必要があります。
この一定の利益がキーワードで、だいたい5年前後、今出ている利益が出続ける前提で話を進めていくのです。
また、割引率ですが、これは将来の利益を現在の価値に戻す作業と考えてください。
一般的には加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital)を使用します。
加重平均資本コストは、資本調圧に伴うコストなどを勘案された数値であり、計算式は決まっています。
収益還元方式の留意点
収益還元方式とM&Aを考えたときに難しいのは、M&Aを行うことで、シナジーが期待されるため、今までの収益構造とは異なる利益率や売り上げが達成できる可能性が高いという点です。
先ほど、一定の利益が続いていく仮説を採用するといいましたが、この将来の一定の利益というのは、今までの過去の売上や利益をベースにして計算します。
確かに、経営の客観的事情を考慮し成長の可能性を十分に織り込みつつ評価することは可能ですが、結果的に大きく数字が変わることが考えられます。
特に、特殊要因が絡み合い一時的に評価が増減している場合は、評価がより慎重になってきます。
こうしたことから収益還元方式で用いられる利益は、重要な営業外損益がある場合を除き、税引き後営業利益を活用することが一般的です。
利益というと、すぐに経常利益を思い浮かべがちなので十分に注意してください。
もう一つの収益評価方式であるDCF方式とは
もう一つの収益評価方式として、DCF方式があります。
DCF方式では、算出に当たり、対象会社の利益に注目するのではなく、フリーキャッシュフローに注目することになります。
フリーキャッシュフローは株主の配当などを対象にする数値で、M&Aにはもってこいといえるかもしれません。
フリーキャッシュフローを求める方法ですが、過去の3~5年程度の経営状況やその配当の平均値をベースに算出する場合と、今後の事業計画に基づいて算出する場合があります。
今後の事業計画に基づいて算出する場合は、事業計画が対象としている期間の後は最終事業年度のフリーキャッシュフローが続くものとしています。
こうした数値には、現在ある資産の使用可能期間を延長させたりするメンテナンスの費用なども含まれてくるため、かなりダイナミックな数字が出てくるでしょう。
資本的資質や運転資本という考え方は、一般的な経営の考え方とはまた異なってくるため、M&Aとは関係なく勉強になったと考える人も多いようです。
M&Aと加重平均資本コストの関係性
収益還元方式のまとめの代わりとして、最後に加重平均資本コストとM&Aの関係性についてみていきます。
加重平均資本コストは収益還元方式でもDCF方式でもどちらでも活用する数値ですが、各種リスク率と呼ばれる様々なリスクを勘案して最終的に決定されるでしょう。
M&Aが起こると経営環境は大きく変化するため、この数値を出しているコンサルタントによっては、M&Aをリスクとしてとらえ大きく割り引くことがあります。
一方で、ほかのコンサルタントでは、M&A自体をメリットとしてとらえ割り引かないという判断をする可能性も否定できません。
このように、M&Aによる経営環境の変化をどうとらえるかによって将来の企業価値は変わってきてしまいます。
ぜひ、1つの評価額にとらわれずに、多くの評価軸を駆使して多角的に経営を評価してみてください。