M&A事例集。続いては設備工事業です。設備工事業と一言で言っても業務は多種多様にわたるため、M&Aにおけるシナジーをどのように発揮していいのか悩む人も多いのではないでしょうか。
設備工事業の動向や特徴
設備工事業は業界としてかなり難しいところに来ているのではないでしょうか。
東京オリンピックや人々の生活スタイルの変化、あるいは駅前再開発や過疎過密化の進行など、経営を行うという点では非常に厳しい判断を求められることが多いでしょう。
そんな外側の経営環境だけでなく、人的資源としての圧倒的な人不足はどの業界でも叫ばれているところではありますが、設備工事業界はその影響をもろに受けているといわれています。
そんな業界であるからこそ、大きな会社にM&Aされたい、あるいは周辺設備に強い会社を吸収したいなどを積極的に考えている会社も多いようです。
M&Aとなれば、相手の会社の人材も吸収できる。会社の幅を広げるとともに人材確保にもつながるため、こうした危機的状況になっていればいるほどM&Aの良さに注目が集まってきます。
設備工事業のM&Aでよくあるポイントは、直請下請の比率や過去の受注履歴、レガシーコストなどが注目される傾向にあります。
加えて未成工事支出金の資産性も見られるため、経営的な視点だけでなく技術的な部分も含めて総合的に評価されると考えたほうが良いでしょう。
設備工事業におけるM&A事例:背景
今回の主人公は、数年前に創業者から事業継承した後継者が、その後すぐにM&Aを考え出したという少し特殊な事例になります。
この後継者は受け継いだ時にすでに50代後半と年齢に不安を抱えていました。
また、引き継いでまだ間もないため、すぐにほかの後継者を見つけるのは不可能でした。
そのような後継者がすぐに見つかるのであれば、そもそもこの型が継承する必要はなかったはずです。
また、設備工事業ならではの問題を抱えていました。
年に数件の大型の設備工事案件を受注していましたが、明らかに2020年のオリンピック関連と思われる工事が多く、その後の経営に不透明感を抱えていたのです。
加えて、業界全体の状況としての人材不足がこの会社にも影響を与えていました。
ある程度ゆとりのあるキャッシュフローを実現するために、資金力の強い会社とM&Aを行うことによって、こうした問題が解決できるのではないかと考えたのです。
設備投資も人材確保も先立つものがなければ十分にうまくいかないというのはビジネスでは基本でしょう。
設備工事業におけるM&A事例:進め方やポイント
M&Aを決断した経営者としての希望は、資金力は当然のこと完全な同業者を避けました。
全く同じような会社にM&Aされることは、自分の会社をあまり高く評価してくれないのではないかと考えたのです。
また、これは事業シナジーを考えると自然ともいえるでしょう。
設備工事業の仕事は多種多様であり、似たような仕事から多くの仕事が派生することがあります。
そう考えたときに全く同じものを得意としている企業とのM&Aは特が少ないと考えたのでしょう。
結果として、商流上の付き合いがあった非同業他社とのM&Aを進めていくことになりました。
商流上の付き合いということで川上から川下までの大きな案件をスムーズに受注することが出来ます。
また、ほかにも事業を持つ総合的な大企業であったため、この会社の強みを最大限に評価してくれることになったのです。
設備工事業におけるM&A事例:効果
東京オリンピック関連の数年間の大型案件受注の履歴が高く評価され、M&A交渉はスムーズに進みました。
また、この買い手企業は交渉に当たる前から売り手企業の買収のメリットを完全につかんでいました。
こうして、売り手企業の得意な部分を買い手企業の資本力を利用してさらに広げていくことに成功しました。
加えて、非同業他社ということで人材交流が活発になり、10年以内に2回も経営者が変わるという不安から立ち直ることが出来たのです。
こうした、働いている人のモチベーションを維持するということは、M&Aを進めていくうえで非常に頭の痛い問題です。このモチベーションは、数値として把握することが出来ないため、様々な事前評価などでは見えてこない部分といえます。
今回は、非同業他社の大企業の新しい知識が、このモチベーションに対するカンフル剤として効果を発揮しました。
まとめ
会社を継いだ後継者が5年以内にすぐに次の後継者を探すというのはなかなか事例がありません。
今回の事例は、非同業他社も視野に入れた関係でスムーズにいったといえるでしょう。
M&Aを成功させるコツは、やはり条件に対するメリットデメリットをしっかり把握しておくことです。
これがうまくいっているだけで、交渉速度が変わってきますし、企業選定で無駄な時間をとられずに済むのです。