一般的に、売手側経営者にとって、M&Aは一生に一度の大イベントです。 一方、買手側企業はほとんどの場合、M&Aを経営上の事業戦略の一環として位置付けていますから、M&Aを何度となく行っているかもしれません。 過去の実績を踏まえ、その都度、経験豊富なM&Aアドバイザーや仲介事業者といった専門業者の支援を仰ぎながら、交渉に入ってくることが多いのです。 これでは、交渉以前に、すでに結果は明白です。 本来ならもっと高く売れるところを買い叩かれたり、不利な契約条項まで付けられることで、M&A後にしこりを残すなどの話しをよく耳にします。 このような事態にならないよう、いかに有利な価格で会社を売却することができるかについて解説していきます。
目次
自ら交渉を行わずプロに任せること!
近年、中小企業や小規模事業者、個人事業主までもが、M&Aを事業承継や事業戦略のための手段として利用しています。
経営者によっては、自ら単独でM&Aに臨むといったことも見られます。
しかし、これはお勧めできる方法ではありません。
なぜならM&Aにおける売却価格の交渉その他のプロセスは、複雑で専門的な知識、ノウハウが要求されるからです。
交渉にあたって必要な準備
売手側企業はM&Aで会社を高く売却する前提として、M&A仲介事業者との事前相談と契約を行います。
そして自社情報の開示と買い手候補企業の情報収集などを進めていきます。
M&A事業者を選定する
M&Aを有利に行うためのパートナーとなる相手です。
まず第一に、M&Aの経験が豊富で、成約率の高い M&Aアドバイザーなどを選ぶことです。
そして、事業者への支払費用も大切な問題ですが、事業者との相性もまた大切な要素です。
複数のM&Aアドバイザーなどと面談をして、その事業者(特に担当者)との相性を見極めることです。
その際、双方契約や不利な専任契約を締結しないように十分な注意が必要です。
情報の開示
M&Aに際して開示すべき自社情報としては、まず、財務情報です。
直近3年分の財務情報が必要で、当然ですが財務内容のよいほうが有利に価格交渉を進めることができます。
また、ほかの会社にはない独自の知識やノウハウ、技術などの知的財産といった非財務情報も積極的に開示しておくとよいでしょう。
逆に、経営者が高齢で体調が思わしくない(売り急いでいると思われる)といったネガティブな情報は、できる限り秘密裏にしておきたいものです。
買手候補企業の情報収集
M&Aも売買契約ですから、買手側の情報についても収集する必要があります。
情報収拾に当たっての主なポイントは以下の通りです。
⚫︎企業の規模を知る(大企業か中小企業か、上場会社か非上場会社か)
⚫︎どのような業種・業態を行っている会社なのか
⚫︎M&Aの目的は何か、求めるものは何か
これらのことから大企業で上場しているなら、財務内容、経営規模も明らかですから、売却価格の概要なども把握しやすいでしょう。
また、シナジー(相乗)効果を目的とするM&Aなら、同業種または異業種間で、どのような人材、技術、ノウハウを求めているのかなどが推察できます。
具体的な売却交渉のコツは?
一般的なM&Aでの売却交渉としては、「相対交渉」と「競争入札」の2つの方法があります。
自社の希望する売却価格と買手候補の情報から、買手候補の検討・絞込みと交渉方法の選定を行っていきます。
相対交渉のメリット・デメリット
相対交渉は、買手候補企業を1社のみに絞って交渉する方法です。
この方法のメリットは、買手候補企業と今後の経営方針などをじっくりと検討できるため、M&A後の企業の成長性について相互に理解を得やすいこと。
デメリットとしては、十分時間をかけて検討することは、逆に買手候補企業に交渉の主導権を握られ、希望した売却価格に至らないこともあるということ。
競争入札のメリット・デメリット
競争入札は、複数の買手候補企業と同時に交渉する方法です。
この方法でのメリットは、複数の買手企業候補が提示した売却価格の中から、より有利な条件で価格を選べるといったこと。
一方デメリットは、長期間にわたる交渉になるため、売手側にとっても、買手候補企業にとっても負担が大きくなること。
この点が中小企業などでは敬遠されるようです。
ケースによってどちらを選択するか?考えながらが◎
相対交渉、競争入札いずれかの手法を決めるにあたり、ケースをかんがみて判断していくためどちらがよいといは一概に言えません。
個々の事情に応じて使い分けたり、両者の折衷的な方法も検討すべきでしょう。
まとめ
売手側経営者はM&Aアドバイザーなどを通して、買手候補企業と交渉しますが、自己の利益ばかり優先して客観性・合理性のない売却価格をおし通していては、まとまるものもまとまりません。
M&Aも売買契約のひとつですから、相手の信頼と理解があってはじめて契約は成立します。
買手側企業がどのような目的でM&Aをしたいのか、どのようなシナジー効果を期待しているのか、どのような成長を目指しているのかなど、相手の立場に立って、理解する努力も大切です
そうすることで、相手側も歩み寄りを見せ、売却価格も双方が納得する合理的な金額に落ち着いていくというものです。
M&Aおける最良の売却交渉のコツとは、このような偽りのない地道な努力そのものではないでしょうか。